• 077-548-2207
  • 糖尿病性神経障害と骨髄細胞

    <糖尿病により引き起こされる骨髄細胞の異常>

    糖尿病とその合併症は、全世界的に増加傾向の疾患です。しかしながら、その病態メカニズムは未だ解明されていないため、病気の進展を遅らせる事はできても、完治を目指した治療法が確立されていません。そこで、我々の研究室では、糖尿病モデルマウスを用いて糖尿病の根治治療を視野に入れた病態メカニズムの解明に取り組んでいます。

    我々は膵島新生を目的とする糖尿病の遺伝子治療法開発の過程で、未治療糖尿病動物の肝臓内にインスリンを産生する不思議な細胞を見いだしました(Nat Med 2003)。この細胞は骨髄由来で、ホルモン作用をほとんど持たない僅かのプロインスリンを産生し、肝臓だけでなく多くの臓器内へ侵入していました(PNAS 2004)。しかも、強力な細胞障害遺伝子TNFαを発現するという奇妙な特徴を有していた。そこで、糖尿病合併症への関与を疑い、代表である糖尿病性神経障害についてげっ歯類を用いて詳細な検討を行いました。この細胞は坐骨神経や脊髄後根神経節へと遊走し、神経細胞と細胞融合する(図1)ことにより、神経の機能障害や細胞死を生じさせていることを見いだした。

    【図2】右図:MIP(マウスインスリンプロモーター)駆動GFP発現マウスよりROSAマウスへの骨髄移植後、糖尿病マウスを作成。左図:右図モデル動物にて、ドナー骨髄細胞由来でインスリンプロモーターで合成されるGFP蛋白陽性細胞とレシピエント由来β-gal陽性細胞、神経細胞の特徴である nurofilament (NF) 陽性の細胞(白)が認められ、ドナーとレシピエントの両方のバックグラウンドを持った神経細胞が存在し、細胞融合が示唆された。

     

    培養細胞を用いた実験においても糖尿病で出現するプロインスリンを発現する神経細胞はほとんどすべてが異常骨髄細胞との融合細胞(図2左)であって、この細胞のみにカルシウムホメオスタシスの異常(図2右)やアポトーシスが生じていた。これらの事実は糖尿病合併症の成因を根本から考え直すことと同時に、確実な治療法開発への期待を示すものでありました。

    【図2】糖尿病ラット初代培養後根神経節ニューロンにおける検討。左図:ニューロンにおける核酸量(ploidy)。プロインスリン陽性分画(赤)では、2倍から3倍に増加している。右図:Ca transient curve (KCl刺激後) 。プロインスリン陽性細胞融合ニューロンでは、Ca transient curveのリカバーまでの時間 (Δtime)が延長している。

     

    以上より、高血糖に暴露された骨髄細胞は何らかのプログラミング異常を起こし、インスリンおよびTNF-αを発現する異常細胞へと変化し、末梢神経組織へ遊走し、細胞融合を起こして、神経障害が発症するという新しい病態機序を見出しました(図3)。

     

    【図3】異常骨髄由来細胞と神経障害発症への関わり

     

    この現象をさらに検証するために、既知の神経障害発症要因であるpoly ADP-ribose polymerase(PARP) のノックアウトマウスを用いた検討を行い (FASEB, 2012)、その中でPARPが抑制されることにより、細胞融合が抑えられることやインスリン陽性細胞が減ることがわかりました。その他にも、TNF-αノックアウトマウスから骨髄移植をした糖尿病モデルマウスで、神経障害が抑制される(Diabetologia, 2015)ことや、インスリン陽性の骨髄細胞のみを選択的に死滅させることでも神経障害が抑制されること(AJP, 2016)も証明し、上記の機序(図3)が神経障害の発症に大きく関わっていることを証明してきました。

    さらに、大変興味深い検討として、この異常にプログラムされた骨髄細胞はいったいどのような特徴を持っているのかという検索をしたところ、骨髄細胞のうち、c-kit(+), Sca-1(+), lineage(-)の分画が起源であることを突き止めました(FEBS, 2014)。この分画がどの程度、病態発症に寄与しているかを検証するために、高血糖に暴露され異常にプログラムされた骨髄細胞を用いて、正常マウスに移植したところ、高血糖ではないにも関わらず、細胞融合を起こしていることがわかりました(FEBS, 2014)。このことより、一度高血糖暴露により異常プログラムされた骨髄由来細胞は、それらをメモリー化し、個体を超えても修正されないことがわかりました。このことは、糖尿病性神経障害を代表とする合併症が不可逆であることを説明できる現象であると我々は考えています。そう考えると、根治を目指した新たな治療戦略が必要であるといえるでしょう。

     

  • 論文

    Kojima H, Fujimiya M, Matsumura K, Younan P, Imaeda H, Maeda M, Chan L.
    NeuroD-betacellulin gene therapy induces islet neogenesis in the liver and
    reverses diabetes in mice. Nat Med. 2003 May;9(5):596-603.

    Kojima H, Fujimiya M, Matsumura K, Nakahara T, Hara M, Chan L.
    Extrapancreatic insulin-producing cells in multiple organs in diabetes. Proc Natl
    Acad Sci U S A. 2004 Feb 24;101(8):2458-63.

    Terashima T, Kojima H, Fujimiya M, Matsumura K, Oi J, Hara M, Kashiwagi A, Kimura H, Yasuda H, Chan L.
    The fusion of bone-marrow-derived proinsulin-expressing cells with nerve cells underlies diabetic neuropathy. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 102: 12525-12530, 2005.

    Yamakawa I, Kojima H, Terashima T, Katagi M, Oi J, Urabe H, Sanada M, Kawai H, Chan L, Yasuda H, Maegawa H, Kimura H.
    Inactivation of TNF-α Ameliorates Diabetic Neuropathy in Mice. Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab., 301 (5) : E844-852, 2011.

    Terashima T, Kojima H, Chan L.
    Bone marrow expression of poly(ADP-ribose) polymerase underlies diabetic neuropathy via hematopoietic-neuronal cell fusion. FASEB J., 26 (1) : 295-308, 2012.

    Katagi M, Terashima T, Okano J, Urabe H, Nakae Y, Ogawa N, Udagawa J, Maegawa H, Matsumura K, Chan L, Kojima H.
    Hyperglycemia induces abnormal gene expression in hematopoietic stem cells and their progeny in diabetic neuropathy. FEBS letters. 588: 1080, 2014.

    Urabe H, Terashima T, Lin F, Kojima H, Chan L.
    Bone marrow-derived TNF-α causes diabetic neuropathy in mice. Diabetologia. 58: 402, 2015.

    Urabe H, Terashima T, Kojima H, Chan L.
    Ablation of a small subpopulation of diabetes-specific bone marrow-derived cells in mice protects against diabetic neuropathy. Am J Physiol Endocrinol Metab. 310(4):E269-75, 2016.