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  • 神経因性疼痛の分子治療に迫る

    神経因性疼痛の分子治療に迫る

    「痛み」の原因となる知覚神経障害は様々な病態で生じ、QOLを大きく低下させる要因となっている。現在、その痛みをコントロールする方法として様々な薬物や外科的治療が試みられているが、十分にコントロールできる治療法は確立されていない。我々は、「痛み」の原因となっている神経因性疼痛に対する遺伝子治療法の開発を行っている。

     

    <神経組織特異的標的化治療>

    遺伝子治療を行う際に、十分な効果を得ることは重要ですが、その際に期待しない効果・影響(いわゆる副作用)をいかに最小限に抑えるかということへの配慮が必須である。そこで、我々は神経細胞や組織を特異的に標識または結合する方法がないかと考え、homing peptides やmolecular ZIP code と呼ばれるペプチドに着目した。これらは、血球系の細胞や様々な蛋白質などがそれぞれの目的の組織や臓器に選択的に到達するときに働いていると言われているもので、非常に短鎖なペプチドで構成されている。我々は、神経細胞(後根神経節:感覚神経系)に対する特異的ペプチドを下記のファージライブラリー(図1)を用いて、バイオパンニングを施行し、スクリーニングした(図2)。

    図1 図2

     

    その結果、我々は、感覚神経細胞特異的結合ペプチドを同定しました(図3)。これらを用いて
    臨床的有用性が注目されているヘルパー依存型アデノウイルスベクター(HDAd)を改良し、組織特異性を組み込むことにより一次感覚神経細胞である後根神経節ニューロンへの特異的遺伝子輸送システムの開発を行いました(図3)。

    図3

     

    本来HDAdが持っている組織共通結合部位を取り除き、新たに我々が見いだしたDRGに特異的に結合するペプチド(Oi et al, Neuroscience letters, 2008)を挿入することによりDRG標的遺伝子輸送を実現させることに成功し、標的組織以外での遺伝子発現を最小限に抑えることが可能となりました。これにより、ウイルスベクターに対する免疫反応も最小限に抑えられ、ベクターの安全性は飛躍的に向上しました。また、その性能を明らかにするために、運動系および感覚系を含んだ全身に神経障害の出現するマウス(Hexb KO mice)に遺伝子治療を行い、DRGを標的とした感覚性末梢神経障害の特異的な遺伝子治療に成功しました(Terashima et al, J. Clin. Invest. 2009)(図4)。

    図4

     

    現在、神経因性疼痛や糖尿病性神経障害 (Terashima et al, PNAS, 2005) に対し、このシステムを用いた新規治療法の開発を進めている。また、今回作成した組織特異的ヘルパー依存型アデノウイルスベクターシステムは世界初であり、標的認識部位を自在に入れ替えることができるため、様々な疾患や臓器への汎用性が高く、遺伝子輸送システムの技術を大きく躍進させるものと確信している。

     

    <サルDRGにおけるマウスDRGペプチドとの相同性>

    さらに、我々はマウスDRGにて同定したペプチドが、霊長類であるサルDRGにどの程度反応するかを検討している。マウスDRG標識ペプチドは、サルDRGにおいても標識可能でヒトへの応用が可能ではないかと想像しうる結果を得ている。さらに、ナノダイヤモンドを担体として用いた遺伝子輸送を行うことを計画している(図5)。

    図5

     

    <レンチウイルスベクターを用いた疼痛治療>

    神経因性疼痛の誘発因子の一つとして炎症性サイトカインであるTNF-αが関わっていることが知られている。我々はこのTNF-αを抑制することで、新たな神経因性疼痛の分子治療となるのではないかと考えウイルスベクターを用いたTNF-αの発現抑制効果を神経因性疼痛モデル動物を用いて試みました。
     まず、TNF-α発現を抑制するshRNAの候補を4つ選別し、それらを発現するレンチウイルスを作成(図6)。それらを用いて、培養細胞にて遺伝子発現抑制効果を検討しました。

    図6

     

    最も効率よくTNF-αの発現を抑制した、shRNAを選別し、神経因性疼痛モデルマウスに投与(図7)。感覚神経細胞である後根神経節細胞(DRG)にて投与した遺伝子の十分な発現が認められ、見事に神経因性疼痛を抑制しました。

    図7 Ogawa et al. PLoS One, 2014.

     

    レンチウイルスベクターを用いることで、薬物や抗体などを頻回投与することに比較し、継続して安定した遺伝子発現を確保することができ、慢性疼痛などの長期的な病態に対する治療としては最適であると考えられる。安全面など臨床応用へはハードルはあるが、改良を加えることで手法として期待の持てる技術であると考えている。

  • 論文

    Oi J, Terashima T, Kojima H, Fujimiya M, Maeda K, Arai R, Chan L, Yasuda H, Kashiwagi A, Kimura H.
    Isolation of specific peptides that home to dorsal root ganglion neurons in mice. Neuroscience Letters, 43: 266-72, 2008.

    Terashima T, Oka K, Kritz AB, Kojima H, Baker AH, Chan L.
    DRG-targeted helper-dependent adenoviruses mediate selective gene delivery for therapeutic rescue of sensory neuronopathies in mice. J. Clin. Invest., 119 (7) : 2100-2112, 2009.

    Ogawa N, Kawai H, Terashima T, Kojima H, Oka K, Chan L, Maegawa H.
    Gene therapy for neuropathic pain by silencing of TNF-α expression with lentiviral vectors targeting the dorsal root ganglion in mice. PLoS One. 9: e92073, 2014.